『猫のとらじの長い一日』今川はとこ著 〜猫エイズを発症した、余命3日の愛猫と〜

『猫のとらじの長い一日』今川はとこ著 〜猫エイズを発症した、余命3日の愛猫と〜

ねこ本書評 #06

もし、愛するねこが余命3日と宣告されたら——? 30代独身OLの「私」と、ねこエイズキャリア「とらじ」の、エイズ発症から始まる日々を描いたマンガエッセイ。いつか来る日を思いながら、ねこエイズキャリアもノンキャリアも、すべてのねこと暮らす人に読んでほしい作品です。

ちなみにねこエイズに関しては、当メディアでも愛しのりんごねこというシリーズでさまざまなケースを紹介しています。

拾った子ねこはエイズキャリア。発症しなければふつうのねこ?

主人公の私は、ある日友人から子ねこを拾ったという連絡を受けます。以前からねこを飼いたいと思っていた私は、子ねこに会うとそのかわいらしさにメロメロに。早速、引き取ることを決めたのでした。こうして私の家族になった子ねこは、とらじと名付けられます。
そんなとらじ、検査のために訪れた動物病院で「ねこエイズウイルス陽性」の判定を下されます。とはいえ、潜伏期間が長いことや発症しなければ問題ないことを聞いて安心していた私。しかし、そんなに簡単なことではなかったと後に思い知ることになります。7年後、とらじはエイズを発症させてしまうのです。

エイズと聞いて驚く私。一生発症しないケースもあると聞いて希望を持つ

ねこエイズキャリアが守るべきルール

もちろん、発症前からねこエイズキャリアであるとらじとの生活に人一倍気を遣っていた私。完全室内飼いにすることや、発症の原因となるストレスを避けるというルールを守ることはもちろん、高価でも安心して与えられるプレミアムフードを食べさせるなど、意識の高い暮らしをしてきました。また、感染を防ぐためにほかのねこと接触できないとらじ。彼が唯一舐めることができる存在は飼い主の私だけという自覚のもとに、たった1人のとらじの家族として愛情を注いできたのでした。
しかし、運命は残酷なもの。体調を崩したとらじを動物病院へ連れて行くと、獣医師からエイズが発症したようだと告げられてしまいます。

余命3日の宣告から、漢方薬で持ち直す!?

インターフェロンやステロイドによる治療を始めたものの、急激に元気をなくしていくとらじ。低体温症を起こして死線をさまよい、何とか乗り越えた先に待っていたのは「余命3日」の宣告でした。

あまりの宣告に、すぐには現実を受け止めきれない私

獣医師から安楽死の選択も示唆された私は、大きなショックを受けます。治療法のないエイズという病気だから仕方ないのかと思う一方で、「獣医師がどうにもできないなら、私がどうにかするしかない」との思いが芽生えた私。情報収拾の末に、藁をも掴む思いで漢方薬を使ってみることにしたのです。
宣告どおり3日後に熱を出したとらじに漢方薬を与えると、本当に熱が下がった!喜んだ私はその後もとらじに漢方薬を与え続けますが——。

自分の力でとらじを治そうと奮起する

愛猫のいる今この一瞬だって尊い時間と気づかせてくれる

人見知りで食いしん坊のとらじと私の日常には、ねこと暮らす人なら「あるある」と微笑んでしまうような、ありふれているけれど愛おしい空気が満ちています。描かれているのは、特別ではない、どこにでもいる飼い主とねこの姿です。ねこエイズキャリアでもノンキャリアでも、ねこと過ごす時間の価値は等しく尊い。いつか必ず来るその日に、思い残すことなくお別れをするために、今この一瞬も大切にしたいと隣にいる愛猫を抱きしめたくなる読後が待っています。

そして、私が漢方薬での治療に挑戦するシーンで感じたのが、「最終的には飼い主が主治医」であるということ。大切なねこのために飼い主自らの知識と行動力で闘わなければならない場面は、どこのご家庭でも出てくる可能性があります。その時のために、日頃の健康管理ともしもの時の用意や情報収拾をぜひしておきたいものです。

また、後半では私のペットロスについても描かれています。悲しみに沈む私をじんわりと救ってくれたのは、とらじの思い出を共有する友人の存在でした。愛猫との関係を家庭内だけにとどめず、誰かと共有する。それが、愛猫の死後も飼い主を支えてくれるのかもしれません。


書籍情報

『猫のとらじの長い一日』
著者:今川はとこ
発売日:2018年4月14日
定価:本体760円+税
出版社:小学館