『野良猫の拾い方〜猫は買わずに拾う時代。〜』富田園子/監修・東京キャットガーディアン

『野良猫の拾い方〜猫は買わずに拾う時代。〜』富田園子/監修・東京キャットガーディアン

ねこ本書評 #03

何とも大胆なタイトルの書籍である。これを執筆したライターであり編集者の富田園子さんは、自身も保護ねこ活動を個人で行う現場人だ。彼女の自宅には、元野良ねこの飼いねこ7匹に加え、彼女が「拾った」里親募集中の野良ねこが常に居候する。そんな著者だからこそ出てきたタイトルなのだろう。 

富田さんは独特の何かを持っているらしく、野良ねこを拾う率が高い。意図せずともねこと出会ってしまうのだ。幼いころからねこを拾う機会を望んでいたにもかかわらず、滅多に拾うことのなかった私からすると、これも一つの才能なのではないかと思う。 

この書籍が上梓されてから5カ月後のこと。夜、自転車で自宅付近を走っていた彼女は、またしても出会ってしまった。資材置き場の単管パイプの上に置き去りとなった、へその緒付きの子ねこに。 

拾った直後、動物病院にて(写真提供:富田園子) 

彼女から「1日だけ預かってほしい」というSOSが来たのが怒涛の子育ての始まりだった。状況からして、おそらく母ねこに忘れられたのであろう生まれて2日程度の頼りない子ねこ。ほんの1日のお預かりのつもりだったが、私はこれまで離乳前の子ねこを育てあげたことがなかったので、勉強のために挑戦してみようかなと思ってしまったのだ。彼女の著書であるこの本に触発されたことは否めない。

本書はそんな生まれたて子ねこの育て方はもちろん、保護直後のケアの仕方や深刻なコンディションの時にできることなどが盛りだくさんに詰め込まれている。他に類を見ないコンテンツが並ぶ、稀有なハウツー本である。主に著者が撮影したという写真もインパクト大。一番衝撃的だったのは、体温が下がった重篤な状態の子ねこの湯煎だった。こんな方法があるなんて。 

応急手当についてもイラストと写真で細やかに解説されている(『野良猫の拾い方』より)

そんな風に、本書では目の開いていないへその緒付きから大人ねこまでの「拾い方」と、実際に「拾った」後の手順などが懇切丁寧に書かれている。保護活動の現場人をやっていない限り、ほとんど知る機会のない知識が満載なのだ。ねこ素人の人にも、それなりにスキルを積んだ人にも、非常に役立つと思う。

というわけで、本書を教科書代わりに、私の初めての育児が始まった。数時間おきのミルクに排泄。途中、カンピロバクターにやられて何度か死線を彷徨い、夜遅く救急にかかったこともあった。打ち合わせやらバイト先やらとにかくどこにでも「子連れ出勤」しまくった。コツはキャリー内の温度とミルクの温度・濃さ。百戦錬磨のミルクボランティアさん(乳飲み子専門の保護ねこボランティア)にアドバイスをもらいつつ、不安になると教科書となった本書を開いた。

「生きているだろうか?」と、キャリーケースの蓋を開けるのが怖かったころ

著者から引き受けた子育てが、著書に助けられるというヤヤコシイ構図。それも相まってか、七転八倒しながらの初めての子育ては成功した。生命が危ぶまれた子ねこは、歴代最もやんちゃで怖いもの知らずの少年ねこになった。誰彼構わず気を許した瞬間に飛びかかるものだから、大人ねこたちは皆眉をしかめる。そんな彼にも先日、里親さんが決まった。

本当に貴重な体験をさせてもらった。そんな野良ねこ愛に満ちた本書。いざという時のバイブルとして、各家庭の蔵書に加えてもらいたい一冊である。 

仮名は富田さんにちなんで「トミー」

書籍情報

『野良猫の拾い方』
企画・編集・執筆/富田園子
監修/東京キャットガーディアン
定価:1,512円(税込)
ページ数:176
ISBN:978-4-278-03960-3
出版社:大泉書店
http://www.oizumishoten.co.jp/books/03960.html


(文責:藍智子/CAT’S INN TOKYO