『わたしのげぼく』 上野そら・作/くまくら珠美・絵〜ねこが上から目線で語りかけてくる絵本

『わたしのげぼく』  上野そら・作/くまくら珠美・絵〜ねこが上から目線で語りかけてくる絵本

ねこ本書評 #02

上野そらさん作、くまくら珠美さんが絵を描いている絵本『わたしのげぼく』。わたしの”げぼく”とは、なかなかアグレッシブなタイトルですが、この”げぼく”とは、ねこのことではありません。

「けしからん!」…というお叱りは無用 

このタイトルと表紙を見て「ねこが下僕なんてけしからん!」と勘違いする人もいるようですが、ねこはこの本の語り手である”わたし”の方。彼は自分はオスだけど知的だから”わたし”と名乗るのがふさわしいと考えているねこです。 

”げぼく”とは、当時4歳だった男の子のこと。たくさんの兄弟ねこの中から”わたし”を選んだのが、この男の子でした。彼は”わたし”のトイレ掃除や遊び相手をしてくれるのですが、かっこいい”わたし”の世話を「したいのだろう、させてやろうではないか」と”わたし”は、完全なる上から目線で見て、考えているのです。

そして”わたし”は、何をしても自分よりどんくさい彼を「”彼”と呼ぶのがよそよそしいので、”げぼく”と呼ぶことにする」のでした。完全なツンデレねこさんですね! 

くまくら珠美ワールドも魅力

ねこあるあるをリアルに描いた絵がいい味を醸します

こんな風に始まる物語は、原作の上野そらさんが、最初はウェブで掲載していたもの。絵本化にあたって、文章は絵本向けにブラッシュアップされたそうです。そして絵を担当したのは、ねこイラストで人気の高い、くまくら珠美ガハク。くまくらガハクはtoletta mag.で描き下ろしの『猫又劇場』も連載中。「ねこしか描かない」と宣言するガハクの緩くてシュールな絵は、コレクターがいるほど支持されています。

さて、出会ったときは0歳ねこだった”わたし”と、4歳の男の子だった”げぼく”は、ときにはすれ違ったり、仲直りしたりしながら成長し、いつまでもかわいい”わたし”に比べ、大きく成長していきます。”げぼく”が七夕の短冊に願い事を書かなくなる年齢になっても、”わたし”は”彼”を”げぼく”と呼び続け、”げぼく”はやがて天体望遠鏡で夜空を見上げるような青年になっていくのでした。そんな後半は、涙無くしては読めない、大きな感動を呼ぶ展開になっていきます。

読み終えると感動で胸がいっぱいに  

『わたしのげぼく』は、増刷に増刷を重ねているベストセラー。絵本と言っても、総ページ数はゆうに60ページ以上とボリューミーで、読み終えるとすごく充実した読後感に包まれます。もちろん子どもでも読めますが、ねこ好きの大人がじっくり楽しめる内容の濃い作品となっています。

ねこだって個性はさまざま。どのねこも世話をしてくれる人間が”げぼく”とは思っていないだろうけれど、こんなねこさんがいたっていいし、喜んでお世話したくなっちゃいますね。

(編集部)


書籍情報


上から目線のねこ”わたし”が笑いと感動をお届けします

作:上野そら/絵:くまくら珠美
発売日:2017年7月31日
定価:本体1,200円 + 税
判型:B6判
出版社:アルファポリス