戦争とねこ。ホームレス画家の生き様とは『ミリキタニの猫』/銀幕のねこたち#07

戦争とねこ。ホームレス画家の生き様とは『ミリキタニの猫』/銀幕のねこたち#07
© Lucid Dreaming, Inc.

ニューヨークの路上で絵を描き続けていたホームレスアーティスト、日系二世のジミー・ミリキタニ。その彼の作品はねこをモチーフにしたものが多くあります。独特のタッチは何とも優しく、どこか日本画のような味わいを感じさせられます。

ジミー・ミリキタニの拠点はニューヨーク・ソーホーの街角、コリアンストアの前が定位置です。そんな彼のことが気になり、撮影を始めたのがドキュメンタリー映画監督のリンダ・ハッテンドーフでした。淡々とした日常を捉えたドキュメンタリーが、突如として変化したのがあの日、9.11でした。

ジミー・ミリキタニの描いた猫(1990年代前半)
撮影/佐藤哲郎

ワールドトレードセンターが崩落し、あたり一面もうもうとした土埃で覆われる中、ジミー・ミリキタニは身じろぎもせず、一心不乱に筆を進めるのでした。乱れる画面と共に映し出されるその光景は、フィクション映画以上にフィクションにしか見えません。これまでの常識を逆さまにされた気がしました。

でも彼にとって、心に蓋をすることは容易いのかもしれません。なぜなら彼は第二次世界大戦で母国であるアメリカで日系人収容所に送られ、生まれ故郷のはずのアメリカで市民権を剥奪された経験があるから。彼の作品は、ねこと戦争という二極分化したテーマで描かれています。

リンダ監督は逃げる気のない彼を、カメラを止め、自宅に避難させます。そして奇妙な共同生活が始まるのです。

ジミー・ミリキタニの愛猫「ミコ」
撮影/デロチャ・マテ

そこから次々と解明されていく壮絶な彼の人生。全てを飲み込んで静かに絵を描き続ける生き様の裏にあるものとは何だったのか。心に大きな課題を与えられるようなノンフィクションです

リンダ監督の愛猫にも着目!

全編にわたってねこ要素が散りばめられていますが、特に同時多発テロ後のシーンに注目してください。テロや戦争といった重苦しい人類の負の遺産を、リンダ監督の自宅で飼われているねこさんが柔和してくれます。ジミー・ミリキタニは、穏やかなねこの姿を描くことで、平和を見ていたのかもしれません。

『ミリキタニの猫』
原題:『The Cats of Mirikitani』
監督:リンダ・ハッテンドーフ
製作年:2006年
製作国:アメリカ
配給:パンドラ
販売元:アップリンク
時間:74 分


現在、日本で絵画展と特別上映会を開催中!

映画『ミリキタニの猫《特別篇》』

「ミリキタニの猫」と追悼短編「ミリキタニの記憶」(2016年、監督:Masa)の2本同時上映作『ミリキタニの猫《特別編》』は、以下の会場で4月16日まで観ることができます。追悼短編と特別編では、当初知られていなかった過去を含めたジミー・ミリキタニの数奇な人生が描かれています。

ツールレイク収容所跡地で描くミリキタニ
撮影/Masa Yoshikawa

シネマ・チュプキ・タバタ
日時:4月1日(月)~16日(火)  連日17時~
※水曜定休(13日、14日は上映後トーク付)
住所:北区東田端2-8-4(JR田端駅 北口徒歩5分)
TEL: 03-6240-8480

絵画展『ミリキタニはネコ』

会場には、初公開作品を含む70点以上の作品のほか、未発表ポートレート(「ミリキタニの記憶」出演、佐藤哲郎撮影)や、ミリキタニと同時期にニューヨークの路上に暮らしていたホームレスたちの写真展(佐藤哲郎撮影)なども展示されています。

全労済ホール/スペース・ゼロ B1ギャラリー・展示室
会期:2019年4月2日(火)~4月12日(金)
開館時間:11時~19時30分(最終日は17時まで)
*休館日会期中無休
入場料:無料
住所:渋谷区代々木2-12-10 (新宿駅南口徒歩5分)
問合せ:070-5253-5695(MASA)/info@nekonomirikitani.com

ジミー・ミリキタニ(1990年代前半)
撮影/佐藤哲郎

(編集部)