イスタンブール流 ねこ観が新鮮『猫が教えてくれたこと』/銀幕のねこたち#03

イスタンブール流 ねこ観が新鮮『猫が教えてくれたこと』/銀幕のねこたち#03

トルコ・イスタンブールは、ねこの街として有名。野良ねこも、飼いねこも、地域ねこもそこここに姿を現し、街角のあらゆるところにその存在をなじませています。本作は、そんなねこたちと、毎日をひたむきに生きるイスタンブールの人々との、心の交流を映したドキュメンタリー。独特な古い建築物、賑やかな港、人々の集うカフェといった美しい風景に様々なねこが登場。そして多くの人生のストーリーに触れることができます。

イスタンブールにいるのは、どんなねこ?

イスタンブールの街を行く

イスタンブールはねこ天国! ねこが街や港の風景になじみ、当然のように暮らしている特別な街です。低い所から狙っている冒頭のカメラワークは、ねこ目線でイスタンブールの街を眺められて、とてもワクワクしてきます。 そしてトルコ語のユニークな響きや、作品中に流れる独特の楽器を使った音楽、「ベンギュ」「ガムシズ(お気楽)」といった、聞き慣れないねこたちの名前も楽しい作品です。

イスタンブールのねこは、毛の色や体型などの姿は日本にいるねことあまり変わらないようです(強いて言えば、どうやらどのねこも、みんなシッポが長い傾向あり)。そして、ボスの地位を狙うねこ、気高いねこ、甘え上手なねこ、嫉妬深いねこ、ご飯をねだるのが上手なねこなど、性格や行動がそれぞれ違うのも、私たちの知っている愛らしい、素敵なねこそのまま。それだけに本作を観ると、ねこそのものより、むしろねこと過ごすイスタンブールの人々の文化や暮らし、ねこに対する考え方の方が、より新鮮に映るかもしれません。

ねこと暮らすイスタンブールの人々

ねこは人々にとって特別な存在

アーティスト、飲食業、漁師、とさまざまな職業の人々が登場しますが、イスタンブールでは、みんながねこにフレンドリーに接します。そしてどの人の人生も、ねこと深くかかわっています。

「ねこの気持ちに合わせることが大事」とねこと共に暮らすコツを教えてくれる人もいれば「動物を愛せない人は人も愛せない」という見解を語る人、「傷ついたねこを世話することで、自分が癒された」という人、また「ねこのユーモアに触れているうちに、人生を取り戻せた」「ねこがいなかったら悲惨な子どもだったろう」と、自分の生きてきた過去や子ども時代を振り返る人もいます。

ねことつながりが深い日々を過ごす中で、大切な存在だったねこを失うと「会いたい…」という気持ちが抑えられない人もいれば、「むしろ愛するものもこの世を去ると知り、死を冷静に受け止められるようになった」と語る人も。かけがえのない存在の死をどう受け止めるかは、イスタンブールでも人によって違います。

変わりゆくイスタンブールの街

子ねこたちもたくさん生まれる

また、ねこが自然のまま街で暮らすため、イスタンブールでは野良の子ねこもたくさん誕生しています。それだけに、残念ながら生まれたばかりで亡くなってしまう子ねこの数も多いようです。カフェで、出会ったばかりの子ねこを手の中で看取る人も登場します。

そんなイスタンブールの街も「今少しずつ変わりつつある」という話題も出てきます。緑が減り、ねこが住み着いていた建物がビルに建て替えられる、といった近代化。新しいビルに建て替わるとなれば、住んでいたねこは、そこを去らねばなりません。「新たな場所で生きていけるのか」「世話をしてくれる人に出会えるのだろうか」と人々は憂います。

「船に乗ってやってきた」と言われているイスタンブールのねこたちの生活は、ひょっとすると、これから、少しずつ変化していくのかもしれません。

ねこ好きにおすすめの楽しみ方

本作を観て、今現在のイスタンブールのねこたちの姿を、しっかりと心に焼き付けながら、あなたにとってねこはどんな存在なのか? ねこはあなたの人生に何を与えてくれているのか? そんなことを考えてみてはいかがでしょうか。


■『猫が教えてくれたこと』作品情報(Blu-ray/DVD)
2018年5月2日発売
Blu-ray価格:¥4,700+税/DVD価格:¥3,800+税

監督:ジェイダ・トルン
(2016/トルコ/本編79分+特典映像/カラー)
音声:オリジナル(トルコ語)字幕:日本語字幕 
発売元:アンプラグド
販売元:ポニーキャニオン
ⓒ2016 Nine Cats LLC


市川はるひ 

東京都出身。長い演劇活動を経て、現在は主に映画ライター。作家性の強い作品やアート系を中心とした新作映画を、自主運営サイト「東京・ミニシアター生活」で紹介している。マスコミ試写会で得た感動が「作品を観るべき人に届くように!」と願い、熱量多めの文体でお届け中。ときにはインタビュー記事やイベントレポートも掲載。家族は、多頭崩壊から保護された父・娘のねこ2頭と夫が1人。

映画紹介サイト「東京・ミニシアター生活」
 https://www.minithea.tokyo