『The Comforts of Madness』Pale Saints〜ねこは大トリに/お宝ねこジャケコレクション#04

『The Comforts of Madness』Pale Saints〜ねこは大トリに/お宝ねこジャケコレクション#04

今回選んだ1枚は、Pale Saints(ペイル・セインツ)の 『The Comforts of Madness』。日本語だと「狂気のやすらぎ」ってタイトルになる。この「お宝ねこジャケコレクション」第4回目にして、アメリカを抜け出すことにした。大西洋をひとっ飛びして、今回着地するのは、UKロックのイギリスだ。 

足元を見てるから「シューゲイザー」

英国は花のロンドンのず〜っと北の方に、リーズという都市がある。モノの本によるとモダンな観光都市で、ちょっと足を伸ばせば大自然にも恵まれているようなところらしい。このリーズ出身のシューゲイザー・トリオが、今回取り上げるアルバムのアーティスト「ペイル・セインツ」。 

あ「シューゲイザー」って、聞きなれない言葉かと思うけど、これは音楽のジャンルというか、スタイルの1つで「Shoegazer=靴を見つめる人」という意味らしい。語源は、イギリスの何とかってバンドのボーカルが、歌詞を覚えられなくて、足元に貼ったアンチョコを、ガン見しながら歌ったことから来てるらしい。 

確かにシューゲイザーに分類されるバンドのヤツらは、足元のエフェクターを見るかのように首を振り演奏してる。このペイル・セインツもライブはそんな感じ。低くセットしたマイクに向かって、俯き加減で淡々と歌う。

日陰を駆け抜けたペイル・セインツ  

ペイル・セインツが、アルバム『The Comforts of Madness』を出したレーベルは、かの「4AD(フォーエーディー)」。英国インディーレーベルの老舗で、ゴシックロックのBauhaus(バウハウス)や、スコットランド出身のCocteau Twins(コクトー・ツインズ)も輩出してる。アルバム『The Comforts of Madness』がリリースされたのは1990年代初頭。音楽もファッションも「ニューウェイブ全盛期!」のころね。 

ペイル・セインツの特徴といえば、ボーカル&ベース担当イアン・マスターズの少年の様に細く美しい声と、個性的なベースライン。当時はもちろん、今でもビックリするような斬新なプレイで、カリスマ性があった。現在のスローコア(ドローンと重たいヤツね)や、アイスランドのSigur Ros(シガー・ロス)なんかにも影響を与えてるハズ。ちなみに、彼がバンドを抜けた後、ペイル・セインツはアルバムを1枚出しだけど、こりゃもうまったくベツモノ。 

同時期に活躍し、日本でも大人気でフジロックのとき来日したMy Bloody Valentine(マイ・ブラッティ・ヴァレンタイン)と比べると、少し地味な印象のバンドだった。というか、マイブラがシューゲイザーの表だとしたら、ペイル・セインツは裏。もう少しナヨってるというか、抜けきらなくて虚弱な感じ。とにかく内向的でネガティヴ。 

対訳を読んでもらえればわかるけど、ひたすら暗い。オビには「耽美派」なんて書いてあるけど、わかりやすく言うと「メン●ラ系」か?(笑)。そのせいか、日本での人気はイマイチだった気がする。なのになぜかイアン・マスターズは今現在、大阪で暮らしているとの噂が、ネット上ではチラホラ上がってるんだよね。 

僕は求めた「もっと暗さを!」 そして出会ったこのねこジャケ

僕とこのバンドとの出会いは、同じイギリス出身のJoy Division(ジョイ・ディヴィジョン)というポストパンクのバンドにハマって、聴きまくっていた時期。「ポストパンク」というのは70’sパンク以降の様々な音楽がカオスに混じり、パンクロックの存在を引き継ぐ流れの音楽。今で言う「Grunge(グランジ、意味は「汚れてる」)」かな。で、ジョイ・ディヴィジョンは、いわゆる「耽美派」の元祖みたいなバンド。やっぱり陰鬱で、ひたすら内に内に入っていく感じだった。 

若いころは誰しも自虐的なモノに憧れたりするよね。自己愛が強い時期でもあるし…。かくいう僕もまた然り。で「もっと暗いバンドないかな〜」と聴き漁っていた時に出会ったのが、このペイル・セインツのファーストアルバム『The Comforts of Madness』。しかも、ジャケットはドライフラワーの中に…ねこ! 着色で毛の色はわからないが、なんとなくこいつは、サビねこだと僕は思っている。もしかしたらイアンの飼いねこかも。この手の内向的なシンガーは、ねこを溺愛する人が多い。 

アルバムのおすすめは、もちろん代表曲の『Sight Of You』、これぞシューゲイザー的な『Language Of Flowes』。それと「音の海を渡るんだ…!」と静かにイアンが叫ぶ、深い海の底で演奏している様な『Sea of Sound』がいい。余談だけど、僕的には「海中を表現した楽曲」として、現代音楽のGavin Bryars(ギャヴィン・ブライアーズ)『タイタニック号の沈没』に次ぐブクブク感! 

そして、このアルバムを最後まで聴いてもらうとわかることがある。最後の最後に聞こえてくるその声は…そこまで聴いてもらったら、このねこジャケデザインに、合点がいくと思う。


『The Comforts of Madness』作品情報

★収録曲 
1.Way The World Is(世界のはじまるとき)2.You Tear The World In Two(ユー・ティア・ザ・ワールド・イン・トゥ)3.Sea Of Sound(シー・オブ・サウンド)4.True Coming Dream(夢分析)5.Little Hammer(小さな金槌)6.Insubstantial(超現実)7. A Deep Sleep For Steven(スティーヴンの深い眠り)8.Language Of Flowers(花言葉)9.Fell From The Sun(イカロスのなげき)10.Sight Of You(サイト・オブ・ユー)11. Time Thief(時間泥棒) 
★リリース年​月:1990年2月 


佐藤洋平 

福島県郡山市出身。高円寺の老舗ライブハウス「稲生座」番頭、猫の任意保護団体「高円寺ニャンダラーズ」代表。中学生から郡山の音楽喫茶に出入りし、米国や英国の新旧音楽を聴きかじる。多感な時期に聴いた”The Fools”などのレベルミュージックの影響で、不屈のスピリットを目指すようになる。2011年より、福島第一原発事故被災動物のレスキュー活動を開始。高円寺周辺を根城に猫の保護活動や猫に関する啓蒙活動なども行う。

高円寺ニャンダラーズサイト http://nyandollars.org/

高円寺ニャンダラーズブログ https://ameblo.jp/nyandollars/