『The Jackie McLean Quintet』 Jackie McLean〜ねこのマクリーン〜/お宝ねこジャケコレクション#02

『The Jackie McLean Quintet』  Jackie McLean〜ねこのマクリーン〜/お宝ねこジャケコレクション#02

お宝ねこジャケコレクション #02

今回は、僕が大好きなアルト・サックス奏者、ジャッキー・マクリーンによる、初リーダーアルバム『The Jackie McLean Quintet(ジャッキー・マクリーン・クインテット)』を取り上げようと思う。

職人気質のハードバッパー、ジャッキー・マクリーン

僕とジャッキー・マクリーンとの出逢いは、昼でも暗い、穴ぐらみたいな田舎の音楽喫茶。店内では「これこそジャズ!」的なマル・ウォルドロンのアルバムが流れていた。タイトルは『レフト・アローン』。暗く重く、狂おしいバラードだ。 

ビリー・ホリデイ作詞、マル・ウォルドロン作曲。歌入れが叶うことなく、ビリー・ホリデイがこの世を去ってしまったといういわくつきの曲である。ジャケットには、幽霊のように映るビリー・ホリデイらしき女性。そんなビジュアルからも、曲の重みが計り知れる。しかもタイトルが『レフト・アローン』「一人取り残されて」とは…まるで恨み節ではないか。 

不安げなイントロから始まり、亡きビリー・ホリデイのボーカルに代わり、刹那にブロウするジャッキー・マクリーンのアルト・サックス! ジャズ素人でティーンエイジャーの僕はヤラれましたね。それ以降、ジャッキー・マクリーンにはヤラレっぱなし。こうして僕が、ジャッキー・マクリーンの演奏であれば、ビバップ、メインストリームジャズ、フリージャズと、ジャンルを問わずすべて聴くようになっていったのである。 

『レフト・アローン』は”Jazz cats”こと”通のジャズファン”の間では、意外と軽い存在みたいにも言われてるけど、日本でのウケは良かったらしい。おかげで「天才サックス奏者」の主人公の男が、やたらこの曲ばっかり吹きまくる、というキモい某日本映画も作られたっけ。 

最高のメンバーが揃ったアルバム

ま、僕とマクリーンの出会いはさて置き、『レフト・アローン』の4年前に録音されたジャッキー・マクリーンの初リーダー作が、この『ジャッキー・マクリーン・クインテット』だ。ジャッキー・マクリーンは当時若干23歳。メンバーもサイコーで、とびきりファンキー。 

 ジャッキー・マクリーンのアルト・サックスに、ドナルド・バードのトランペット…この人も僕が大好きなプレイヤーの一人。ピアノは大の親日家、マル・ウォルドロン。ベースがダグ・ワトキンス、そしてドラムスは、ロナルド・タッカー。サウンドは、ねこよろしく、弾けて飛び出そうなバップ! 

中でもオススメの曲は、ジャッキー・マクリーンが晩年までプレイしていた彼の代表作『Little Melonae』。これは当時、まだ幼かった娘のメローネに捧げた曲。実に素晴らしい曲なんだけど、愛娘に捧げるならもう少し可愛い方が…と思うのは、僕だけだろうか。『Little Melonae』はジャズのスタンダードと言ってもいいくらい頻繁に耳にする楽曲で、マイルス・デイヴィスも、 ジョン・コルトレーンも演奏してる。 

亡き師匠への思いを込めた『Lover Man』

そして、アルバム最後の曲『Lover Man』。これはおそらく、同じアルト・サックス奏者のチャーリー・パーカーへ捧げたであろう楽曲。この曲は、チャーリー・パーカー自身の名演でも知られている。そして、ジャッキー・マクリーンが『Lover Man』をレコーディングする約半年前の1955年3月に、チャーリー・パーカーは亡くなっている。 

ジャッキー・マクリーンは当時、師匠だったチャーリー・パーカーとケンカ別れしたままだった。そして永久に会えなくなったわけだ。しかも師匠には楽器も金も貸していたらしいから、大事な楽器は返ってこないわ、金は返ってこないわ…。ジャッキー・マクリーンがソコにこだわっていたかはわからないけれど、いずれにせよひどく落胆したらしい。ジャッキー・マクリーンは『Lover Man』を初リーダーアルバムの最後に取り上げることで、チャーリー・パーカーへの鎮魂としたのだろう。 

このアルバム『ジャッキー・マクリーン・クインテット』の「Lover Man』は、師匠の軽快なテンポとはずいぶん違う。『レフト・アローン』にも似たマル・ウォルドロンらしい、ピアノの重く沈んだカッコいいイントロ。そのサウンドに導かれるようにジャッキー・マクリーンのブロウが始まる。…イカしてる!兎にも角にも、このアルバムの『Lover Man』は、 僕の中では”The Jazz”な曲の一つなのである。 

ねこジャケゆえに通称は「ねこのマクリーン」

ところで、このジャケのどの辺がねこかと言うと…そう! この、しりあがり寿かティム・バートンが描いたような、変な生き物? が、ねこなんですよ…。ねこなはず! いや、絶対ねこ! …だって世間ではこのアルバムを「ねこのマクリーン」と呼ぶらしい。僕も、今回このアルバムのことを改めて調べてみて、初めて知ったんだけどね。ちなみに1955年にマイナーレーベルでリリースされたときのジャケは、デザインが全く違っていた。

1955年版のサイケデリックなデザイン

でもなんと、こっちもやっぱりねこだったのだ! 非常にサイケデリックで、これまたイカしたジャケだよね。 そんなわけで、最近、僕はこっちヴァージョンのねこジャケCDをまた購入した。もちろん中身は完全に同じだけどね。どうして中身が同じなのにまた買うのかって? うーん、わかるかなぁ… わかんねぇだろうなぁ。


『The Jackie McLean Quintet』/Jackie McLean作品情報

★収録曲
1.「It’s You Or No One」2.「Blue Doll」3.「Little Melonae」4.「The Way You Look Tonight」5.「Mood Melody」6.「Lover Man」 
★録音:1955年10月(ニュージャージー州ハッケンサックにて) 


佐藤洋平 

福島県郡山市出身。高円寺の老舗ライブハウス「稲生座」番頭、猫の任意保護団体「高円寺ニャンダラーズ」代表。中学生から郡山の音楽喫茶に出入りし、米国や英国の新旧音楽を聴きかじる。多感な時期に聴いた”The Fools”などのレベルミュージックの影響で、不屈のスピリットを目指すようになる。2011年より、福島第一原発事故被災動物のレスキュー活動を開始。高円寺周辺を根城に猫の保護活動や猫に関する啓蒙活動なども行う。

高円寺ニャンダラーズサイト http://nyandollars.org/
高円寺ニャンダラーズブログ https://ameblo.jp/nyandollars/