『My Name Is Buddy』 Ry Cooder〜Hoboになったねこ〜/お宝ねこジャケコレクション#01

『My Name Is Buddy』 Ry Cooder〜Hoboになったねこ〜/お宝ねこジャケコレクション#01

記念すべきねこジャケ第1回は、ライ・クーダーの『My Name Is Buddy』。このアルバムは、全ての 曲がロードムービーのように展開していくコンセプトアルバムだ。ちなみにライ・クーダーは『パリ、テキサス』『ロング・ライダーズ』『クロスロード』といった、さまざまなアメリカの姿を描いた映画のサントラも担当している。

モチーフは『怒りの葡萄』か?

”バディ”とはこのジャケットに描かれているトラねこの名前だ。こいつがスーツケースをベッド代わりに、貨物列車に乗って”Hobo”よろしくアメリカ中を旅するのである。相方にはネズミの”レフティ・マウス”、ストーリーの途中で登場する盲目のカエル”トム・トード”も連れて。
アルバムの舞台は、1930〜40年代の大恐慌時代のアメリカ。ジョン・スタインベックの小説『怒りの葡萄』がモチーフになっていると言われている。『怒りの葡萄』を読んでもらうとわかるが、登場人物のネーミングが微妙に似ているのだ。
スタインベックは、伝説の映画スター、ジェームズ・ディーンの出世作で知られる映画『エデンの東』の原作者である。アメリカを代表する作家だ。

アメリカ文学を語る上で外せない”Hobo”

さて、ここで前出の”Hobo”について説明しておこう。”Hobo”は「ホーボー」と読む。無賃乗車で貨物に飛び乗っては働ける農園を探し歩く、季節労働者をさすスラングである。白人労働者のカントリー ブルーズには”Hobo”がつく歌がたくさんあって、アメリカ文学にも”Hobo”が随所に出てくる。ジャケのバディは、まさにそんな労働者階級を思わせる風貌である。

ところで僕が生まれた福島県では、あちこちに用事があって出かけるときに「どごさ、いぐんだい?」と聞かれると「ほーぼーさいぐだ」と答える。「ほーぼー」は「いろんな場所」という意味だ。語源はおそらく「方々」だろう。

当時のアメリカには福島からも日本人がたくさん入植している。もしかしたら白人労働者に混じって、僕らの先祖も貨物で旅をしていたかもしれない。そして白人に身振り手振りで「Where’re you going?」と聞かれた彼らはきっと「ほーぼさいぐだ!」と、身振り手振りで話したかもしれない。 なーんて思いを馳せながら僕はこのアルバムを聴き入るでのある。

スタインベックとの出会い

余談だが、なぜか僕は、子どものころから非常に”Hobo”に興味をもっていた。『エデンの東』は中学生のころ、映画館に観に行ったのだが、そのときも僕はジェームズ・ディーンよりも、スタインベックの綴ったストーリーと、アーリーアメリカンという時代に惹かれた。それがきっかけで、スタインベックにも興味をもった。

当時、僕のオヤジは図書館の館長だったのだが、なぜか偏った政治活動もしていた。そんなアウトローなオヤジにスタインベックのことを聞いてみたら「『怒りの葡萄』を読め」と言われたのである。それで読んでハマったのだから、オヤジに感謝。その後は文学だけではなく、アメリカーナミュージックにも徐々にハマっていき、音楽をやるベースとなったように思う。このアルバムを聴くと、そんな青かった時代やオヤジとの思い出も蘇ってくるのだ。

で、お題のライ・クーダーの『My Name Is Buddy』。語り部はライ・クーダー、お囃子はアメリカーナ・ミュージックの重鎮たちだ。プロテストシンガーであるピート&マイク・シーガーの兄弟と、言わずと知れたヴァン・ダイク・パークス。このアルバム、移民問題を抱えてゴチャゴチャしてる現在のアメリカにとっても、非常に大事な作品なんじゃないかと思う。

ハードカバーのブックレットも絵本みたいですっごくイイ。何より、このイカしたねこのバディが友と連れ立ち、大恐慌時代のアメリカ中を旅してるってとこ。労働者組合の様子、KKKの話など、当時 のアメリカの社会情勢を実にわかりやすく描いている秀作だ。


『My Name Is Buddy』作品情報

★収録曲
1.「Suitcase in My Hand(スーツケース・イン・マイ・ハンド〜スーツケースを手に)」2.「Cat and Mouse(キャット・アンド・マウス〜猫とネズミ)」3.「Strike!(ストライキ!)」4「J. Edgar (J.エドガー)」5.「Footprints in the Snow(フットプリンツ・イン・ザ・スノー〜雪の中の足 跡)」6.「Sundown Town(サンダウン・タウン)」7.「Green Dog(グリーン・ドッグ)」8.「The Dying Truck Driver(ザ・ダイイング・トラック・ドライヴァー〜死にそうなトラック運転手)」9.「 Christmas in Southgate(クリスマス・イン・サウスゲート)」10.「Hank Williams(ハンク・ウィリ アムズ)」11.「Red Cat Till I Die(レッド・キャット・ティル・ダイ〜死ぬまで赤い猫)」12.「 Three Chords and the Truth(スリー・コード・アンド・ザ・トゥルース〜3つのコードと真実)」13.「My Name Is Buddy(マイ・ネーム・イズ・バディ)」14.「One Cat, One Vote, One Beer(ワ ン・キャット、ワン・ボート、ワン・ビアー〜猫、投票、ビール)」15.「Cardboard Avenue(カー ドボード・アヴェニュー~〜ダンボール通り)」16.「Farm girl(ファーム・ガール)」17.「There’s a Bright Side Somewhere(ゼアーズ・ア・ブライト・サイド・サムホエア〜どこかに素晴らしい場 所が)」
★レーベル​:​ワーナーミュージック・ジャパン
★リリース年月​:2007年3月


佐藤洋平 

福島県郡山市出身。高円寺の老舗ライブハウス「稲生座」番頭、猫の任意保護団体「高円寺ニャンダラーズ」代表。中学生から郡山の音楽喫茶に出入りし、米国や英国の新旧音楽を聴きかじる。多感な時期に聴いた”The Fools”などのレベルミュージックの影響で、不屈のスピリットを目指すようになる。2011年より、福島第一原発事故被災動物のレスキュー活動を開始。高円寺周辺を根城に猫の保護活動や猫に関する啓蒙活動なども行う。

高円寺ニャンダラーズサイト http://nyandollars.org/

高円寺ニャンダラーズブログ https://ameblo.jp/nyandollars/