死の淵から回復したりんごねこも!保護ねこボランティア五十嵐さん(前編)/愛しのりんごねこ #04

死の淵から回復したりんごねこも!保護ねこボランティア五十嵐さん(前編)/愛しのりんごねこ #04

「りんごねこ」をご存知ですか? これは、自走型保護猫カフェ「ネコリパブリック」がつくった言葉。 FIV(ねこエイズウイルス)に感染したねこの愛称で、彼らへの偏見や差別をなくして譲渡率をアップさせたいという思いから生まれました。

さまざまなりんごねこたちの暮らしぶりをお届けするシリーズ第4弾は、りんごねこを含む保護ねこボランティア活動に励む五十嵐さんのお話です。

「toletta with りんごねこ」ページはこちら

一軒家をねこ仕様にカスタム! 33頭を保護中

五十嵐さんは、前回の記事で紹介した楓丸ともみじの保護・譲渡を行った保護ねこボランティアさんです。現在33頭のねこを保護し、共に暮らしている彼女の自宅はねこ仕様にリノベーションされ、庭には保護ねこ専用の小屋が建っています。

「今いる33頭のうち、8頭がりんごねこです。ねこたちはほとんどがシニアなので特別な理由がなければ里子には出さず、うちで最後まで暮らしてもらう予定なんです。個人で活動しているので、これだけいるとお世話もそれなりに大変ですね。餌やりや掃除、投薬などの作業は出勤前に毎朝2時間半もかかりますよ」と、笑いながら語ってくれた五十嵐さん。
これまでたくさんのねこを保護してきた経験から、ケンカするなど相性が悪い場合を除いて、りんごねこと他のねこの隔離は行っていないと言います。

天窓からの光が心地よいリビング。キャットウォークやハンモックが備えられ、ケージが置いてある
取材で訪ねた編集部メンバーを歓迎してくれるねこさん
クローゼットの中を楽しげに移動するねこさんも

職場近くで出会った「運命のねこ」に導かれ、ねこの素晴らしさに開眼

元々は犬好きだった五十嵐さんが保護ねこ活動を始めたのは、今からおよそ13年前。そのきっかけになったのが、職場の近くで出会った野良ねこたちでした。
「当時の職場近くには野良ねこが多かったんです。みんな人懐こくて、昼休みに餌を持って通ううちに膝に乗ってくれる仲に。特に懐いていたミミオ、ジジ、さくらという3頭がいましたが、ある日、ジジがいなくなってしまったんです。状況的に、恐らくどこかで死んでしまったのだろうと考えられました」
3頭は人に捨てられたねこだったと言います。餌をもらっているとはいえ、野良ねこ暮らしは過酷なもの。ジジの死をきっかけに、残る2頭を自宅に連れて帰ろうと考えました。
こうして五十嵐家初のねこになったミミオと桜。彼らが天寿を全うするまでの数年間、家族として深い絆を築いていきました。2頭を通じて、五十嵐さんはねこと暮らすことの楽しさに目覚めたと言います。

五十嵐さんにとって忘れられない「運命のねこ」となったミミオくん
強い信頼関係で結ばれたミミオくんと五十嵐さん
後から加わった仲間たちとも仲良く暮らした

「餌やりだけでは根本的解決はない」保護ねこ活動を始める

ミミオたちの保護に協力してくれた女性がいます。五十嵐さんと同じように職場付近の野良ねこたちを見守っていた女性で、以前に保護ねこ活動を行っていました。
「彼女に言われたんです。『避妊去勢手術をしないで野良ねこに餌をあげるのはいけないのよ』って。その言葉でTNR活動のことを知りました。餌を与えるだけでは、その場しのぎにしかならない。それよりも根本的にねこを助けたいという思いで、保護ねこ活動を始める決心をしたんです」

自宅近くの駐車場に野良ねこがたくさんいることを気にかけていた五十嵐さんは、まず捕獲器を購入して10頭以上のねこを捕獲。野良猫の避妊去勢手術をしてくれる病院は今ほど多くありませんでしたが、なんとか病院を探して手術を受けさせることができました。捕獲したねこのうち、子猫や病気のねこは引き上げて里子に出したり、五十嵐さんの自宅で世話することにしました。こうして活動を開始した最初の半年で、費用は50万円に上ったと言います。
「当時は助成金制度も少なかったのですべて自費でまかないました。もちろん大変でしたが、その苦労を上回るやりがいを感じたんです。野良ねこたち自身を救うことはもちろん、増え過ぎた野良ねこに困っていた住民の方たちからも御礼を言われましたからね」

チャットンくんの保護時の様子。怯えた瞳で刺々しい印象
今ではこんなに穏やかで優しい表情になったチャットンくん

保護したねこに、ねこエイズで亡くなった例はない

保護したねこの中には、楓丸のようなりんごねこもいました。里子に出したねこも出さずに五十嵐家で最後まで暮らしたねこも、ねこエイズを発症させて亡くなったねこはこれまでいないと言います。
「りんごねこだった子で、亡くなったのはこれまでに4頭。3頭は腎不全で、1頭は子猫でFIPでした。その子たちは10〜15年は生きたので、ほぼノンキャリアのねこと変わらない年数を生きたことになると思います」

りんごねこだったサンくんは、五十嵐さんとお花見を楽しめるほどのお利口さん
同じくりんごねこだったレオくん。仲間のねこたちが病床の彼に最後まで寄り添った

生死の境から回復したりんごねこ・モコちゃん

五十嵐さんが保護したねこに、ねこエイズが原因で亡くなった子はいませんが、生死の境から奇跡的な復活を遂げたねこがいます。それが、取材時にキャットウォーク上でくつろいでいたモコちゃんです。

モコちゃんの取材時の様子。ふわふわの長毛が魅力的

「モコは保護当時妊娠していて、しかもりんごねこでした。環境が変わったこともきっかけになったのでしょう、保護後に急激に体調を崩してしまいました。ねこエイズは免疫不全になるわけなので、症状はさまざま。モコの場合はリンパ種を発症しました。3ヶ月間も高熱が続いて生死をさまよいましたが、インターフェロンとステロイドの投与を中心とした治療を半年間続けて回復! 今ではご覧の通りに元気に暮らせています」

保護当時のモコちゃん
五十嵐さんの献身的な看病の末に、見事に回復した

五十嵐さんが保護したねこの中には、モコちゃんのように病気に打ち勝った例もあれば、過酷な闘病の末に亡くなったねこもいます。目一杯の愛情を注いでお世話するだけに、辛い経験もたくさんしてきました。それでも、楽しんで保護ねこ活動を続けている理由はどこにあるのでしょう? 後編に続きます。

(編集部)