被災野良から、にぎやかねこ家族へ「渚」のケース/愛しのりんごねこ #07

被災野良から、にぎやかねこ家族へ「渚」のケース/愛しのりんごねこ #07

「りんごねこ」をご存知ですか? これは、自走型保護猫カフェ「ネコリパブリック」がつくった言葉。 FIV(ねこエイズウイルス)に感染したねこの愛称で、彼らへの偏見や差別をなくして譲渡率をアップさせたいという思いから生まれました。

さまざまなりんごねこを紹介するシリーズ、今回の主役は被災地で保護された元野良ねこの渚。津波から生き残り、保護シェルターや保護ねこボランティアを経て、今の家族の元へやってきた激動のにゃん生に迫ります。

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津波で人が消えた町、ねこたちは

今回の主役、渚

しま三毛模様のコンパクトボディに、クリッと大きな瞳がかわいい渚は、推定8歳の大人女子。永井さんのおうちで3頭のねこ家族と一緒に暮らしています。
彼女は元野良ねこ。福島県の浪江町という、津波で大きな被害を受けた地域で保護されました。

渚が保護された場所。中央の白い箱がねこの捕獲器

「渚は、被災地で活動している保護ねこボランティアさんの手で捕獲されました。そこは当時、津波の影響で辺り一面が瓦礫の山。住民の方はみなさん避難されて、人が誰もいない場所でした」(永井さん)
保護された渚は、県内の保護ねこシェルターに収容されました。

捕獲器に入った渚。怯えて険しい表情だった

きっかけはSNS 先住ねこトロとの相性が決めて

永井さんが渚を知ったきっかけは、保護ねこボランティアの五十嵐さんによるSNS上での呼び掛け。シェルターから数匹のねこを五十嵐さんたち保護ねこボランティアが引き取ることになったので、そのねこを家族に迎えたい人を募るものでした。
「ねこたちのプロフィールを見て、うちに合いそうな子を探しました。我が家には3頭の先住ねこがいますが、1番優先して考えたのは最年長のトロとの相性。トロは8歳になるサビ柄のメスで、少々ナイーブな性格です。他のねこたちはまだ若いので変化に柔軟ですが、トロに無理はさせられない。だからトロとうまく共生できるかがポイントでした。渚はボランティアよりも一般家庭が合うという見立てがあったことと、三毛ねこなので性格的にきっとトロの負担になる程は飼い主にベタベタにならないと思ったので立候補しました」

トロは控えめで賢いねこ

もちろん、渚のプロフィールにはねこエイズキャリアであることも書かれていました。この点はネックにならなかったのでしょうか?
「当初はねこエイズに関する知識ゼロでした。初めて知ることに、もちろん不安や戸惑いがあったことは事実。でも五十嵐さんに詳しい説明を聞いたり、実際にりんごねことノンキャリアが共生する様子を五十嵐家で見せてもらったりするうちに不安が解消されていって。エイズを発症せずに済むこともあると聞いて、我が家で先住ねこたちと共生できれば心穏やかに暮らせて、発症を防げるんじゃないかと思ったんです」

まずはケージ生活から始めた渚。徐々に先住ねこと慣れていく
先輩ねこのミルは渚に興味深々

いつか迎えたかった4頭目

永井家の先住ねこたちは、それぞれが個性豊か。1番の先輩ねこであるトロは、ほかのねこたちとは一定の距離を置いて付き合う孤高の存在です。長毛のミルは、体が大きくてやんちゃないたずらっ子。生後8ヶ月で遊び盛りのハモは、みんなの弟分的な存在です。ミルとハモが若いねこ同士できゃっきゃとはしゃいでいるのを、トロが少し離れたところでのんびり見守る構図。
「3頭の関係はいいバランスが取れていたので、急ぐことはないけれどそのうち4頭目を迎えたいと思っていました。4頭というのは私が自信を持ってお世話できる上限と感じる数。家の中もねこ仕様に改装したので、できるだけたくさんのねこを幸せにしたいと思っていたんです」

いたずら好きのミル。食器用スポンジを持ち出す癖が
赤ちゃん時代のキュートなハモ。元気な男の子に育った
永井家のリビングは、ねこにとって至れり尽くせりの仕様!

先住ねこたちとの相性は?

渚は順調に永井家に馴染んでいきました。保護ねこ時代に関わってくれたボランティアさんたちが愛情を込めてお世話してくれたおかげで、元野良とは思えないほど人に対して社交的なねこになりました。では、ねこ付き合いの方はどうでしょう?4頭目の家族が加わったことで、永井家のねこバランスに変化はあったのでしょうか?
「渚は先住ねこたちともうまく付き合っていて、トロには必要以上に干渉せず、実は似た者同士のミルとは一定の距離を置いて仲良くしています。子ねこのハモの相手をしてあげることもあるのですが、根っこは気が強い渚はやられたら20倍返し!(笑) ねこパンチ連打をお見舞してスパルタ教育。ハモとは私の膝の上を奪い合ったりもしていて、なんだかんだで甘えん坊な所があるんです」
多頭飼いだからこそ、ほかのねことのコミュニケーションを通じて「本当はこんな性格だったんだ」「こんな一面もあるんだ」という発見が多いのだとか。

実は性格が似ているという渚とミル
まだまだ子ねこなハモの遊び相手になってあげることも
永井家1番のウェルカムキャットになった渚

アレルギー体質の渚、健康管理に注意

ほかのねこに比べて少し粘膜が弱いと感じられる渚。迎えた当初は環境変化のストレスで部分的に禿げてしまったり、食物アレルギーで発疹が出来たこともあると言います。発疹はフードを低分子プロテインのもの(食物アレルギーの原因となりにくい加水分解したタンパク源を使用したフードのこと)に変えたらよくなってきて、今は快方に向かっているそう。
「血液検査の結果でエイズ発症はしていませんでした。ちょっとアレルギー体質なので、おやつを控えたりと食べものには気を遣っています。あとは口臭が少し気になるかも。やっぱりりんごねこなので、お口の健康には特に気をつけようと思います」
トロが6歳の頃に抜歯手術をした経験があり、その時に口の健康の大切さを学んだ永井さん。そこで得た経験や知識を、渚の健康管理にも役立てたいと話してくれました。

目の上から耳の付け根にかけて発疹ができた

すべては保護ねこボランティアさんのおかげ

被災地で保護され、地元のシェルターからさらに別の保護猫ボランティアさんを経て、永井家の家族に。今は穏やかな日々を過ごす渚を見ると、いつも人への感謝を感じると永井さんは言います。
「今の私の幸せがあるのも、渚を保護してくれたボランティアさんたちがいたからこそ。五十嵐さんを含めて、関わってくれた人たちには本当に感謝しています。そして渚も、大変な環境でよくぞ生きていてくれたと思うんです。みんなに感謝感謝です」

一歩ずつ、今の幸せを掴んでいった渚
波乱のにゃん生は、この幸せのためだったのかも

(編集部)