”いのち”を考え、愛しいねことの暮らしを振り返る『犬と猫と人間と』/銀幕のねこたち#06

”いのち”を考え、愛しいねことの暮らしを振り返る『犬と猫と人間と』/銀幕のねこたち#06

「大人にも子どもにも、動物を大切に思ってもらえるような映画をつくってほしい」…ねこ好きのおばあさんから突然依頼を受けたのは、一人の映画監督。この日から、全くねこに縁がなかった飯田監督が、犬やねこが日本でどう扱われているのか、という未知なる世界に入っていきます。さまざまな場所を訪ね、撮影を重ねる中、たくさんの人と出会い、やがて長い時間をかけて動物愛護事情の深部まで切り込んでいくことに…。これは”いのち”がテーマの、貴重なドキュメンタリー映画です。 

ペット大国日本への疑問 

不幸な動物を減らしたいという覚悟を

まず最初に、全く犬にもねこにも縁がなかった飯田監督は、通りがかりの犬を連れた人にインタビューして、映画作りのとっかかりを探そうとします。「あなたにとって、この犬はどういう存在ですか?」その答えは「家族です」。そして街を見回せば、まるで愛しい子どもに着せるようなペット用の服、美しく飾られたペット用のおやつが目に付きます。 

何兆円という大金が動く、巨大な日本のペット産業。しかしその裏で、ペット販売には闇の部分が存在します。動物たちが捨てられている事実、無責任な飼育。こうした現実を知った飯田監督は、日本の自治体であまりに大量の動物の処分(殺されること)が、あることを知り「どうしてこうなるのか?」「なんとかならないのか?」という憤りに似た疑問をもつようになります。 

映画を依頼されたおばあさんから「不幸な動物を減らしたい」という願いを伝えられていた監督は「この問題をテーマにしよう!」という気持ちを固めます。そして、ここから、飯田監督の長い旅が始まります。 

衝撃の光景、そして社会的弱者からもらう勇気 

守るべき命を見守る子どもたち

飯田監督はまず現状を知ろうと、行政の主要施設に連絡をします。次々と取材を断られる中、応じてくれたのが、千葉県の動物愛護センター。そこには、人間の都合で消えゆく”いのち”が集まってきていました。もはや諦めた表情の犬もいれば、まだまだ人に愛を求める犬もいます。ここで目撃するのは、ショッキングで胸が痛む光景ですが、知るべき現実でもあるのです。行政の施設で救われる犬やねこは、ごくごくわずか。ここに消えゆく”いのち”がたくさん存在します。 

次に監督は、民間の愛護団体に目を向けます。50年の歴史がある神奈川県の動物愛護協会は、ねこが40〜50匹、犬が15頭前後保護されている施設。取材の中で、犬やねこを連れてくる人々に、どんな事情があるのかと監督はマイクを向けます。家を競売にかけられるという人、生活保護を受けるためにやむを得なく犬やねこを手放す人など、ここに来るきっかけには、貧困が深く関わっているという事実も浮かび上がってきます。 

犬の里親を探そうと奮闘中

一方で、飯田監督は、ねこの世話をするホームレスたちが、多摩川の流域に存在することを知ります。そして、山梨の山あいには、犬のためにボランティア活動をする学生が。お年玉でフードを買って、ススキ畑に捨てられた犬を育てる心優しい子どもたちも登場します。社会的に弱い立場であるホームレスや子どもたち、まだ若い学生が、自分よりさらに弱い存在である、犬やねこたちを守ろうと奮闘する姿。本作では、そんな心強い場面にも出会えます。 

貴重な取材…英国の動物たち、戦時中の日本の動物愛護 

後半では飯田監督が、たまたま映画上映のために訪れたというイギリスでも、動物の保護の取材を行います。ペットショップが存在せず、野良ねこもいないイギリス。保護施設はスケールが大きく、あらゆる条件が日本の保護施設とは違います。やがてこの国独自の考え方があることがわかってきます。 

取材も終盤にさしかかり、再び日本に戻った監督は、今度は動物愛護協会の元祖ともいえる施設に勤めていた獣医師のもとへ向かいます。当時、動物病院とシェルターが併設されていた施設での活動は、一方で動物の”いのち”を助け、また一方では”いのち”を奪うという矛盾した内容であったこと、戦中の軍事犬の収容の話を聞きます。そして「人々が動物を愛するために必要なものは?」という、深い主題に至ります。 

犬とねこ、そして彼らに関わる人間たち。その間で起こっている知られざる現実が詰まっている本作。現実を知り、解決を求める中で、その先に見えるのは何でしょうか。今自分がどうあるべきか? そんなことが少しずつ見えてくる、とても濃厚なドキュメンタリーです。 

『犬と猫と人間と』 ねこ愛ポイント 

映画制作の依頼を通して、まるでねこと縁のない人生から、動物保護の世界をのぞき見ることになった監督。そこで監督は、驚きや衝撃、喜びや愛、ときにはユーモアにも出会います。そして取材を進める中で、多くの人々と一緒に”いのち”について考えていくことになるのです。ねこと暮らすあなたが観れば、改めてその幸せを噛みしめることになる、そんな作品です。 


■『犬と猫と人間と』作品情報 

DVD価格:3,800円+税 
監督:飯田基晴 
(2009年/日本/118分) 
『犬と猫と人間と』公式HP http://www.inunekoningen.com 
配給:株式会社渋谷プロダクション 
発売:映像グループ ローポジション 
販売元:株式会社 紀伊國屋書店 
©2009.group Low Position 


市川はるひ 

東京都出身。長い演劇活動を経て、現在は主に映画ライター。作家性の強い作品やアート系を中心とした新作映画を、自主運営サイト「東京・ミニシアター生活」で紹介している。マスコミ試写会で得た感動が「作品を観るべき人に届くように!」と願い、熱量多めの文体でお届け中。ときにはインタビュー記事やイベントレポートも掲載。家族は、多頭崩壊から保護された父・娘のねこ2頭と夫が1人。

映画紹介サイト「東京・ミニシアター生活」
 https://www.minithea.tokyo