ねこ好き小学生と一緒に成長「銀蔵」のケース/愛しのりんごねこ #06

ねこ好き小学生と一緒に成長「銀蔵」のケース/愛しのりんごねこ #06

「りんごねこ」をご存知ですか? これは、自走型保護猫カフェ「ネコリパブリック」がつくった言葉。 FIV(ねこエイズウイルス)に感染したねこの愛称で、彼らへの偏見や差別をなくして譲渡率をアップさせたいという思いから生まれました。

さまざまなりんごねこたちを紹介するシリーズ第6弾の主役は、ちょっぴりシャイなキジ白男子「銀蔵」。ねこ好き小学生のマヤちゃんと運命の出会いを果たす銀蔵のサクセスストーリーです!

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水産加工会社で魚をもらって生きてきた銀蔵

銀蔵が暮らすおうちは、お父さん、お母さん、中学2年生のお兄ちゃん、小学5年生のマヤちゃんの4人家族。今でこそ優しい家族に囲まれて幸せに暮らす銀蔵ですが、元々は野良ねことして厳しい環境をサバイブしてきました。

野良ねこ時代の銀蔵

そんな銀蔵が生まれ育ったのは、とある水産加工会社の側です。そこでお母さんや兄弟ねこと共に、余った魚をもらって生きてきました。しかし、ある時その会社が立ち退くことに。残された野良ねこたちは、地域住民の人々にとって迷惑な存在となってしまったのです。

そんな状況を知って手を差し伸べたのが、前回のお話で紹介した五十嵐さんたち保護ねこボランティアさん。銀蔵はお母さんねこと兄弟ねこと一緒に、五十嵐さんに保護されました。その後の検査で、銀蔵兄弟とお母さんはりんごねこであることが判明。恐らく母子感染だろうと言われています。

保護ねこ生活中の様子。膝乗りが大好き!
人には慣れていたものの、他のねこが苦手な銀蔵

ねこと暮らすため抜群の計画性を発揮した小学生・マヤちゃん

ちょうどその頃、小学4年生だったマヤちゃんは家族になるねこを探していました。幼い頃からねこが大好きで、ねこと暮らすことをずっと夢見てきたマヤちゃんは、とても聡明な女の子。ねこを迎え入れる環境を万全に整えるため、きちんとした計画に沿って行動したのです。

「まずは家族の“ねこモチベーション”を上げるために、学校でねこの本を借りてきて家族に読んでもらいました。このページを読んでね、というように具体的なお願いもしましたね。家族みんなにねこのかわいらしさを理解してもらい、ねこと暮らしたい気持ちを育ててもらったんです」(マヤちゃん)

ねこはかわいいという事実を、家族みんなに知ってもらうことから計画は始まった

家族へのプレゼンテーションを見事に成功させ、ねこを飼うことへの賛同を得られたマヤちゃん。ねこを迎える時期についても、彼女の綿密な計画に基づいて決められました。

「私が中学生になると、部活や勉強で忙しくなってあまりねこのお世話ができなくなるかもしれません。だから小学生のうちに迎えたかった。それと、ねこが我が家に慣れるまでは特に気をつけて面倒を見てあげたいので、家にいる時間が長い夏休みに迎えるのがベストだと考えました」

これらは誰に教わったわけでもなく、マヤちゃん自身が考えて立てた計画だというから驚きです。大人も顔負けの行き届いた配慮。そして、次はいよいよねこを探すステップ。どんなねこを迎えたいかについても、マヤちゃんはきちんと考えていました。

「昼間は家に誰もいなくなり、ねこだけでお留守番してもらうことになります。だから子ねこよりも落ち着いた大人のねこがいいと思いました。それから、初めてねこを飼う私たちでも比較的仲良くなりやすいように、人懐こい子がいい! 初心者なので多頭飼いではなく1頭飼いにすることも決めていましたね。それ以外に希望はなくて、毛色も顔もどんな姿のねこでもOKでした」

銀蔵は人懐こいけれど他のねこが苦手な一人っ子タイプで、希望にぴったり

たくさんのねこの中から運命を感じた出会い

マヤちゃんとお母さんは、ねこを探して保護ねこカフェを巡りました。

「ネコリパブリックのお店に何度か遊びに行って、たくさんのねこと触れ合いました。でもピンと来るねこにはなかなか出会えなくて。そうするうちに、ネコリパのお店に貼ってあったイベントのお知らせを見つけて、行ってみることにしたんです」

これが、東京ドームシティで開催されたネコ市ネコ座というイベント。ねこ好きのためのお祭りとったイベントで、ねこ関連のさまざまなグッズが集まるほか、一部が保護ねこの譲渡会場になっていました。この譲渡会に、銀蔵も参加していたのです。

「譲渡会場はテントになっていて、中では自由にねこと触れ合えるというスタイルでした。子ねこも大人ねこもケージから出てウロウロ。そんな中で銀蔵は、私とお母さんの間に潜り込んで動こうとしなかったんです。撫でるとゴロゴロ喉を鳴らして、本当にかわいくて。もう、この子にしよう!って運命を感じました」

銀蔵を保護していた五十嵐さん曰く、「こんな銀蔵の姿は初めて見た」といいます。

イベント参加時の銀蔵。普段とは違う場所で落ち着かない表情

銀蔵の優しさに感動! 改めて実感したご縁

もちろん、マヤちゃんご家族は銀蔵がりんごねこである旨の説明も受けました。

「エイズというと少し驚きましたが、まず人にはうつらないことや、発症しなければ普通のねこと変わらないと聞いて不安が小さくなっていきました。うちなら1頭飼いなので他のねこに感染する心配もありません」

こうして里親トライアルがスタート。正式に譲渡してもらう前に、お試しで1カ月ほど一緒に暮らしてみて、本当に家族になれそうかを見極めることになりました。そこで早速、忘れられないエピソードが。

「銀蔵が我が家にやってきて2日目のこと。初めてケージから出して自由にさせてみました。その日は私がテレビでちょっと怖いお話を見てしまって、寝る前にそれを思い出して泣いてしまったんです。そうしたら、銀蔵が私の隣にやってきてぴったり寄り添ってくれたんです! なんて優しい子なんだろうって感動しちゃいました」

銀蔵とマヤちゃんの間にある深いご縁を感じる出来事でした。このことが決定打になり、予定よりも早く正式譲渡を申し出たのだとか。

マヤちゃんと銀蔵、早くも離れがたい関係に!

歯茎の出血を発見、抜歯に踏み切る

トライアル期間中には、もう1つ大きな出来事がありました。環境が変わったストレスから、銀蔵は片目が開かなくなってしまったのです。慌てて動物病院へ行くと、ねこエイズに詳しい獣医師から「歯茎が赤くないか気をつけて様子を見て」とアドバイスを受けました。幸い目の方は大事に至らず、数日で良くなりましたが、りんごねこである銀蔵は特に健康管理に気をつけようと、日頃から注意して様子を見るようにしたそうです。

そんな配慮の賜物か、いち早く歯茎の出血を発見したご家族。慌てて銀蔵を動物病院へ連れて行きました。以前から口臭が気になっていたことも併せて獣医師に相談すると、歯石のスケーリングと抜歯を勧められました。

「上の犬歯2本と奥歯を数本、抜歯することにしました。術後は口臭がすっかり改善されて、出血も治り調子が良さそうです」

歯石ケア用のフードを与えるなど、今もお口の健康に気をつけている

1週間の食事メニュー表に見て取れる銀蔵への思い

銀蔵のお世話は基本的にマヤちゃんが担当し、必要に応じてご家族が協力しています。食事に関しては1週間のメニュー表を作っているそう。

「プレミアムフードのドライをベースに、銀蔵が飽きないように日替わりで違うドライフードを混ぜてあげています。メニューを作っておけば、間違えて同じごはんを続けてあげることを防げるのでそうしています。それに、毎日私がごはんをあげられるとは限らないので、お母さんや家族があげる場合にもこのメニューを見れば何をあげたらいいか分かりやすいので」

マヤちゃんの細かな気遣いは、きっと銀蔵にも伝わっているはず。
銀蔵はマヤちゃん以外の家族とも仲良く暮らしています。お兄ちゃんと遊ぶのが大好きだったり、穏やかなお父さんに撫でてもらうのも好き。よく構ってくれるお母さんのこともとても信頼していて、銀蔵は家族みんなに愛されています。

マヤちゃんが書いたメニュー表
立派なキャットタワーにステップは、なんとお父さんの手づくり!

「将来の夢は動物看護師」銀蔵と一緒に成人式を目指す

銀蔵と暮らし始めたことで、マヤちゃんには将来の目標ができたのだそう。大好きなねこを助ける仕事がしたいということで、動物看護師を目指していると語ってくれました。

「私と銀蔵は1歳しか年の差がないので、一緒に大人になっていくイメージですね。お兄ちゃんも私も成人式を銀蔵と一緒に迎えられるように、銀蔵の健康管理に気をつけて長生きしてもらいたいです」

仲良くお勉強中。いつも一緒の銀蔵とマヤちゃん
家族に撫でてもらって恍惚の表情
マヤちゃんが大人になるまで長生きすることが銀蔵の目標です

(編集部)